2014年12月号

本ブログへのご訪問ありがとうございます。

ユニバーサル技術者、電子書籍作家のShuichiro Yoshidaです。

大分時間が空いてしまい失礼しました。
2014年12月号のNewton感想文です。


A.朝食と糖尿病の関係
糖尿病は、食事などの生活習慣と関連した病気です。子供の朝食の取り方と糖尿病全体の95%をしめる2型糖尿病との関連について調査が行われました。結果、9から10歳の子供4116人について朝食をとる頻度と、糖尿病にかるリスクをはかる指標である「空腹時血中インスリン濃度」との関係をイギリスのロンドン大学のドニン博士らが調査しました。結果、朝食を取らない子供は毎日朝食を取る子供より空腹時の空腹時血中インスリン濃度が約30%近くも高いことがわかったそうです。

子供のうちから当たり前の生活を当たり前に行うことが重要なのですね。


B.青色LED
昨年の日本科学で最も明るいニュースといえば、青色LED(Light Emitting Diode)ですね。原理を発見した研究者から、それを実用化した技術者まで、3人の日本人がノーベル物理学賞を総なめにしました。青色ができたということはLEDで実現できる光の三原色で最後の色ができたこととなり、これによってLEDによる色の表現が可能になったのです。

まずは、LEDとは何なのかというところから入っていきます。LEDとは「p型」と「n型」という2つの半導体を用いる発光装置です。電流を担うものとしてpositiveのp型には電子が抜けたホールがあり、negativeのn型半導体には電子が浮遊している状態にあります。この2つの半導体を貼り合わせて電圧をかけるとホールと電子が境界面に動いて結合し、この時に余ったエネルギーが光として放出されます。

青色LEDが生まれるまでの歴史を見てみると、まさに紆余曲折。当時、青色LEDを作るために必要な結晶というのは3種類が候補となっており、炭化ケイ素、セレン化亜鉛、そして窒化ガリウムでした。炭化ケイ素は本質的に発行する光が暗く、窒化ガリウムはひび割れや凹凸がおおかったことから、1970年代はセレン化亜鉛が本命として大学や企業で取り組みが続いていました。このような状況にあっても、当時の松下電器東京研究所にいた赤崎博士は窒化ガリウムに注目していました。そして、窒化ガリウムの研究に専念すべく1981年、名古屋大学に研究室を構えた時に当時大学四年生の天野博士がその研究室に入ってきたことでその後、研究が大きく加速をします。

窒化ガリウムの結晶づくりでは「有機金属化学気相成長法(MOCVD)」という手法が用いられます。基盤としてはサファイアを用い、その上に窒化ガリウムの結晶を成長させるのですが、そのまま行うと両者の原子の並び方が異なるためうまくかみ合わず、窒化ガリウムはすりガラスのようなくもった結晶にしかならなりませんでした。そして、工夫に工夫を重ね、窒化ガリウムに窒化アルミニウムの薄い層を作り、その上に窒化ガリウムの結晶を成長させるというひと手間を加え、さらに焼成する温度を1000℃から500℃に下げることで透明なガラス状である窒化ガリウムの結晶の作製に成功しました。

結晶ができた後に取り組んだのがp型半導体です。p型半導体は電気を帯びたホールが多くあって、電流の担い手になります。つまり、電子が足りない状態になるのです。ガリウムが属する13列にある元素は結合に関わる電子が3個なので、結合に関わる電子が2個である亜鉛マグネシウムなどをガリウムに混ぜるとp型にできることが知られていました。天野博士は亜鉛を混ぜてもうまくいきませんでしたが、マグネシウムを混ぜた上で電子線を浴びせるとp型になることを発見し、不純物が活性化することで窒化ガリウムのp型半導体成功しました。後に、p型半導体をつくるために必要なのは電子線ではなく、電子線を照射した時に出る「熱」が重要な要素であるということが後に東亜化学工業の中村修二博士によって解明され、量産化に向け大きく前進しました。尚、現在広く用いられている青色LEDマグネシウムではなくインジウムが使われています。

そして、これらの成果を産業化のレベルに持ち上げたのが日亜化学工業にいた中村修二博士です。中村博士は大手企業が注目するセレン化亜鉛ではなく、窒化ガリウムを選択します。窒化ガリウムはMOCVD法でつくるのが一般的でしたが、この作り方では規則正しく並ぶべき原子の配列が乱れたり、微小なひび割れができたりする、「結晶欠陥」が多くなるという問題がありました。中村博士は決勝欠陥が多くなる原因の一つに「対流」があると考え、結晶の原料となるガスを水平方向に送り込む一方で、基盤に対して垂直方向に不活性ガスを吹き付けることで原料ガスの対流を抑えるということを試み、これによって結晶欠陥の少ない窒化ガリウム結晶を作ることに成功しました。さらに、赤崎博士や天野博士が採用した窒化アルミニウムによるバッファ層ではなく、窒化ガリウムそのものでバッファ層を作ることで、さらに欠陥が少ない結晶を作ることに成功しました。

そしていよいよ「発光層」の導入にいたります。窒化ガリウムでLEDをつくった場合、出てくる光は波長約360nmの紫外線である。ここに、インジウムのような不純物を混ぜることで発光する光の波長が長くなり、青色はもちろん、完全に窒化ガリウムインジウムを置き換えれば赤外線まで発光させることができる、極めて応用範囲の広いものです。中村博士の作った窒化ガリウムの結晶は業界の一般常識に比べるとまだまだ欠陥が多かったのですが、不純物として混ぜられたインジウムがホールと電子を強く引き寄せる、という性質が功を奏し、実用レベルの青色LEDの量産化を実現することができました。

ここまで紹介してきた青色LEDですが、照明以外でも青色LEDレーザーとしてブルーレイディスクにも応用されています。中村博士はLEDと同じ原理で発光させ、その光の波長や位相がそろったレーザー光を取り出すレーザーダイオードの製品化にも成功しています。ブルーレイディスクは、読み取る光の周波数がDVDの赤色光(650nm)よりも短い(405nm)であるため、記憶媒体上の溝の幅もDVDの半分以下になるため、同じ面積で書き込める情報量が増えることになります(ブルーレイはDVDの約5倍)。細いペンで細かく書いたほうが同じ面積に多くの文字をかけることと同じです。これ以外にも、液晶モニターのバックライトも最近はLEDが多くなり、信号機もLEDに置き換わりつつあります。これ以外にも、植物の生長を促す光として野菜工場でLEDを使う、以下やサンマを集める集魚灯もLEDが使われ始めています。医療の分野では口から飲み込んで肛門から排出するカプセル内視鏡の照明にLEDが使われており、消費電力が小さく、装置も小型というメリットを最大限に活用されています。

LED欠点の一つと言われているのがブルーライトの多さ。ブルーライトは目の疲労につながるといわれていることからも、LED照明やLED液晶画面で作業する場合は目の負担低減のためにブルーライトを低減するメガネをかけることも忘れてはいけませんね。


C.最新鋭の航空機
(1)A380
最大重量560トンのエアバス社の最大旅客機A380。これを題材に航空機が空を飛ぶ秘密に迫る、という特集がありましたのでご紹介します。

まずは、機体の外観に関する紹介です。

1.レドーム
機体の先端で丸まっている部分です。この中にはレーダー装置が収められていて、雲の位置や乱気流をとらえることができます。

2.コックピット
操縦士と副操縦士が乗り、航空機の操縦を行う場所。一人の操縦士が期待の操縦、もう一人が管制塔との連絡を行います。A380ではサイドスティックを採用し、操縦輪を廃止しています。この空いたスペースに折り畳み式のキーボードが取り付けられ、システム操作を行うことができます。コックピットには多くのディスプレイがあり、エンジン関連の情報を示すエンジン・ワーニングディスプレイ、飛行機の姿勢、速度、高度などに関する情報が表示されるプライマリ・フライト・ディスプレイ、航空路線、風向き、風速などの情報が表示されるナビゲーション・ディスプレイ、航空路線図や整備関連の情報が表示されるオンボード・インフォメーション・ターミナル、無線機の情報や速度情報、空港関連の情報などを表示するマルチファンクションディスプレイなどがあります。オプションではヘッドアップディスプレイも装備可能です。

3.アイスディテクター
コックピットの前に生えている棒のような形のセンサーで、機体の着氷を検知します。着氷を検知すると、翼の前縁部を温めて着氷を防ぐといった対策を行います。


4.ピトー管
コックピットの両脇にひげのように生えているセンサーが動圧測定用、出っ張っていないセンサーが静圧測定用です。


5.ノーズギア、ウィングギア、ボディギア
機体の先端付近についている車輪、主翼の下についている車輪、機体についている車輪のことをそれぞれノーズギア、ウィングギア、ボディギアといいます。オレオ式緩衝装置という形式を使って衝撃を吸収する形式となっています。着陸後に止まるときには多板ディスクブレーキで減速させる機構となっています。


6.アンテナ
機体の上部に取り付けられています。地上の管制塔と交信するための通信用アンテナやGPSの電波を受信する航法用アンテナがあります。


7.サービスドアとパッセンジャードア
前方向かって右側に取り付けられているドアはサービスドアといわれ、次のフライトの食事や販売品を機内に搬入するのにつかわれ、また非常脱出出口でもあります。逆側についているのがパッセンジャードアで、機体前方のドアは主に乗客の出入り口として、後方の扉は荷物の搬入や非常脱出口として使われます。


8.主翼
巨大な期待を浮かせるための揚力を生み出す翼です。また、主翼のエルロンを動かすことで旋回運動を行います。前縁にはスラットとよばれる可動部があり、前に張り出して主著くとの間に小さな隙間をつくって主翼の下面の空気が上面に回り込み、主翼の周りの揚力が大きくなります。また、左右先端にはウィングチップフェンスとよばれる矢じりがついており、圧力の高い翼面下側から上側に空気が回り込んで乱流が起こることを防ぎ、飛行効率をあげています。翼のメインとなる骨格材のことをスパーといい、翼の付け根から先端までのびています。また、劉千家型となる翼形を作る骨材のことをリブ、さらにストリンガーという細長い骨材を補強することで強度を保っています。
主翼には、一般的に機体の主翼付近にある重心を保つため、そして飛行中に働く揚力による主翼への抗力を低減させる重りの役割として燃料が溜められています。飛行時に燃料は消費されていくため、主翼の先端にはベントタンクがついており、主翼内の燃料が減少して翼面内の圧力が低下してきたときに外気を取り入れて主翼への気圧による負荷を低下させる機構もついています。また、サージタンクとよばれる燃料の流量が急激に変化することを防ぐ緩衝の役割を果たすタンクもついています。ちなみにA380の場合、1秒あたりに消費する燃料は最大6リットル。恐ろしい消費量ですね。
主翼の前縁についている位置灯は機首側から見て右側が赤、左側が緑となっており、機体がどちらに向かって移動しているのかが夜間でも判断できるようになっている。
そして、飛行機を大型化していったときに重要なのが主翼の面積。従来の機体の大きさを2倍にすると、体積は8倍となる一方、主翼の面積は4倍にしかならず、機体そのものの軽量化や主翼の巨大化が必要となる、「2乗3乗の法則」とよばれるものが知られています。


9.スタティック・ディスチャージャー
雷を受ける「被雷」や、空気や雲との摩擦で帯電した電気を放電するための放電索。アンテナのような棒の形をしています。


10.フラップドアフェアリング
高揚力装置ともよばれ、主翼の面積を広める目的で主翼の後部に収納されているフラップを後ろ側に張り出させるためのジャッキやフラップの動くレールがおさめられており、空気抵抗を減らすためにカバーで覆われています。


11.アウトフローバルブ
客室は常にエンジンから新鮮な空気が送り込まれていて、10分ほどで客室内の空気が入れ替わります。アウトフローバルブは客室内の古い空気を排出する弁です。


12.補助動力装置(APU)
主翼にあるメインのエンジンが動いていない地上待機中に発電し、空調を動かしたり、照明をつけたりするときに利用されるものです(空港設備の地上電源を用いる場合もあります)。

13.垂直尾翼
左右方向の運動に対する安定性を高める羽です。ラダーとよばれる可動部分があり、機首のヨー方向(左右)の動きを制御できます。


14.水平尾翼
主翼と同じようにトリムタンクという燃料をためているタンクがついおり、ベント、サージタンクもついています。水平尾翼にはエレベーターとよばれる可動部があり、機首の上げ下げである、ピッチ方向の動き(縦揺れ)を制御できます。離陸するときにはこのエレベーターを持ち上げ、機体の後部に下向きの力をかけることで機首を持ち上げます。


15.ジェットエンジン
一般的な旅客機に使用されているのはターボファンエンジンです。先端にあるファンとよばれる回転翼によって吸入された空気は2手に分かれ、一方はバイパスという外側を通過し、もう一方はコアという遠心圧縮機を通って燃焼室へおくられ、燃料が圧縮空気と混合されて火をつけられることで燃やされます。この燃焼の結果、高温高圧となったガスは前方の圧縮機やファンを駆動するためのタービンを回し、ジェット噴流として廃棄されます。
実に吸い込んだもののうち、約90%程度がバイパス側に流れており、この空気のながれが推力を生み出しています。さらにバイパス流の空気はジェット噴流を適度な速さにすることであますことなく推力エネルギーへと変換させることにつながると同時に、ジェット噴流の騒音を遮ることができる。このように、ターボファンエンジンは燃費が良いだけではなく、騒音が少ないという特徴をもちます。コアに吸入した空気を1としたときのバイパス流の流量をバイパス比といい、効率と燃費がいいエンジンの指標となっていますが、A380に搭載されるジェットエンジンのうち、エンジンアライアンス社(GEとプラットアンドホイットニーの共同出資会社)のGP7200のバイパス比は7.2、ロールスロイストレント900は8.7であり、従来のターボファンエンジンよりも高い設定となっています。
着陸の時にはバイパス流を遮断して前側に流すことで逆噴射をし、機体の減速させる、飛行中の客室内やコックピットへの電力を提供する、低い外気圧よりも客室内の気圧を大気圧に高めるための圧縮空気を送り込むなどの役割も担っています。

(2)F35-B
この次は戦闘機の紹介です。機体の基本構成ではなく、特徴を中心にご紹介します。

1.ステルス性能
レーダーで検知されるというのは、アンテナから発せられたレーダーが対象物にあたり、それが反射され、アンテナに届くことをいいます。主翼水平尾翼の前進角と後退角を同じにすることで、このレーダーの反射波の拡散を防ぎ、レーダーから検知されにくくする機構となっています。

2.2つの垂直尾翼
垂直尾翼を2つにしているのは、急旋回や宙返りなど、大きな迎え威嚇を取りながら飛行した時に、主翼や胴体ではがれた気流の乱れが垂直尾翼に入ってきてしまい、かじ取りが難しくなることを防ぐためである。

3.アフターバーナー
ジェットエンジンが排出するガスに再度燃料を注いで燃焼させる機構のことです。これによりF-35Bに搭載されるF-135のエンジンではアフターバーナーが無いものと比較し60%もの推力向上がかのうとなり、短距離での離陸や急加速が可能となる。F-135のバイパス比は0.57、軽量化のためにCMC(セラミックスマトリックスコンポジット)も用いられています。

4.垂直離陸
推力偏向ノズルとリフトファンの存在によって垂直に離陸することも可能です。推力偏向ノズルは真下にジェット噴流を排気させ、リフトファンはコックピットの後ろにあるファンで、上向きから下向きに空気を排気します。また、主翼の下からロールポストというエンジン排気の一部を下向きに出すことでロールの制御を行います。加えて、エンジン吸気口付近の気温を下げることで、エンジンの推力低下を防ぐという機能も果たしています。

(3)これからの飛行機
A.ソーラープレーン
主翼太陽電池を有し、リチウムイオン電池を搭載することで太陽光が無い時でも飛び続けるという仕組みです。スイス、ローザンヌ連邦工科大学が中心となって研究中のソーラーインパルス2は、2015年に世界一周に挑戦する予定です。

また、電波基地などの応用が期待される無人ソーラープレーンも研究中のようです。

B.ソニックブーム低減飛行機
JAXA東北大学はそれぞれ、翼の形状を工夫することで衝撃波の発生を防ぐということを目指しています。特に東北大学で研究中のMISORAは2枚翼という特殊な形をしています。

C.極超音速旅客機
長年実現が求められている飛行機です。この航空機実現に対しての最大の障害は吸引口付近の空気温度。マッハ5で飛行した時、なんと1000℃近くにも達するようです。液体水素を燃料とし、この燃料でエンジンも冷却しながら300℃程度まで温度を下げられるか研究がおこなわれているようです。
マッハ5で飛べれば東京とニューヨークは2時間で飛ぶことができます。

D.4機のプロペラで垂直離着陸
JAXAは前後4枚の主翼に計4機のプロペラがついており、垂直離陸から巡航まで、プロペラが垂直から水平まで向きを変えられるという特徴を持っています。垂直離陸が必要なので、災害地などでの活躍も期待されています。

E.乱気流の揺れを事前にキャッチ
大部分の乱気流は現在既に採用されている気象アンテナで避けることができますが、晴天で起こる乱気流、晴天乱気流は現在の技術では避けられません。これを避けるために現在JAXAが研究しているのがドップラーライダーとよばれる手法です。ドップラーライダーでは、電波でなくレーザー光を放射して、大気中に浮遊する微細な水滴や塵からの散乱光を受信することで5〜10キロ先の乱気流の様子を知ることができるといわれています。そして、乱気流が避けられないとなった場合に、事前に乱気流の揺れをシミュレートし、機体の揺れを最小限にするというプログラム技術も研究中のようです。


分量が多いので今回はこのくらいにしておきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。