2011年11月号

ドラゴンツリー

さてさて、毎月恒例のNewton報告の番です。
出張すると、新幹線の中でNewtonを読んで、それをアップするというパターンができている気がしますね。

では、早速!



1. 反水素の閉じ込め
反物質という言葉をご存知かと思います。天使と悪魔という物語にもでてくるものです。この世には、物質があるいじょう、その反対の性質をもつ反物質があり、物質と反物質が衝突すると消滅してしまう。この時にエネルギーが発生するのでそれが大量破壊兵器(爆弾)になる、というのが天使と悪魔の中での話です。実際宇宙が誕生したとき、物質と反物質は同じ量あったそうですが、今は物質が残っている(我々の体、身のまわるのものすべてが物質ですよね)。これが、「相対性の破れ」というやつですね。ちょっと話が脱線しましたが。


前振りが長くなってしまいましたが、今月号のNewtonでのっていたのは1000秒という長時間にわたり水素の反物質を閉じ込めることに成功した、という記事です。デンマークの大学の博士が、反電子と反陽子に電気と磁気の力を加えてゆっくり融合させることで309個の反水素を合成し、1000秒を超える保存に成功したとそうです。今回の手法により反物質の性質を詳細に解明できる、としています。

ちなみに、反物質の研究で有名な研究所として、スイスにあるCERNがあります。CERNは天使と悪魔にも登場した実在する研究所です。具体的な規模を忘れてしまいましたが(原爆レベル??)、天使と悪魔に出てくるような大量破壊兵器に匹敵するような反物質を作り出すにはどのくらいの時間がかかると思いますか?



なんと、1億年。


反物質によるテロを起こすには、相当の根気が必要ですね。




2. ボスならではの悩み

社会性を持つ霊長類では、当然群れの中に複数の地位があります。当然、最も地位の高いボス(雄)は、餌を得たり、交尾して子孫を残すということについて優先権があります。はたして、ボスは幸せなのでしょうか?
サバンナのヒヒを例に複数の地位にある個体のストレス量を調査した結果が載っていました。結果地位の高い雄ほどストレスが低いことがわかりました。


しかし、例外が。そう、ボスだけは地位が高いにもかかわらず高いストレスにさらされている、という結果がでたのです。そのストレスレベルは、下位グループの個体と同レベルとか。地位を守るための戦いなどがストレスになっているのではないかとのことです。


これを見て思いました。やっぱり、出世しすぎる、金持ちになりすぎる、有名になりすぎる、はストレスになるんだなぁ、と。ある程度の地位とお金は必要ですが。とはいえ、庶民の私には関係のない話に違いないです(笑)。



3. 探査機はやぶさの成果、第一弾が発表!
ついに、動き始めましたね、この話題。まず第一弾としての成果は、これまでの仮定の正当性を証明した、ということです。その仮定とは、「地球に降り注ぐ隕石の起源は、小惑星である」ということです。


地球に降り注ぐ隕石の8割は「普通コンドライト」と呼ばれるものです。これは地球と近い軌道を回り、かつ数の多い「S型小惑星」が起源だという仮定がありました。イトカワはこのS型小惑星です。ハヤブサの持って帰ってきたイトカワの微粒子を「鉱物の化学組成調査」、「酸素の同位体比の調査」、「鉱物の3次元的な分布調査」、「元素組成調査」という4つアプローチで調査し、結果「仮定」が真実であることが証明されました。これは、素晴らしい成果ですね。


さらに、イトカワの歩みも少しずつわかってきています。ハヤブサの持ち帰った粒子の化学組成調査結果から、一部の粒子に関し、天体内部で800℃という高温で加熱されたという履歴が判明しました。高温高圧にさらされるには、その小惑星自体が大きい必要があります。計算の結果、現在最長部で500メートルしかないイトカワは、過去に直径20キロメートル程度はあったということがわかりました。ほかの小惑星との衝突などにより、一度粉々に破壊され、再びかけらの一部が集合したと推測されるとのことです。この推測を支持するような結果として、強い衝撃により、石が溶けたという形跡も確認されています。


今後の詳細分析結果が楽しみです。




4. 火星では今も水が流れていた
地球に比較的似ている惑星とされる、火星。そこに元々水があったという話はよく聞くと思います。NASAの火星探査機「マーズ・リコネサンス・オービター」が、火星のニュートンクレーターという個所を長期間にわたって写真撮影しました。その結果、液体の水が流れている証拠を撮影することに成功しました。火星には大量の水があったことがわかっており、今も地下には氷として存在しています。火星の低〜中緯度で日当たりのいいニュートンクレーターのような個所は、夏の時期に30℃まで気温が上昇するとのこと。これにより、地下にある氷が溶け出してくることが期待されていたのですが、その証拠が捕らえられたのです。具体的には、夏の時期に黒い筋が延びる様子が写真に写っているのですが、確かに水が流れているように見えます。



じゃぁ、夏の時期は火星住めそうですね。もちろん、大気成分の90%以上が二酸化炭素、気圧は地球の160分の1、昼間と夜の気温差が100℃もあることを覚悟できるのなら(気温が30℃まであっても夜の気温は−70℃)、という条件付きですが。



5. 液状化被害を防ぐには
千葉県浦安市を筆頭に、東日本震災時に各地で液状化現象が確認されました。原発事故は至極当然として、津波、火災、建物倒壊と同様、液状化現象も地震が引き起こす大きな問題の一つです。
そもそも、液状化現象ってなんで起こるんですかね?


地面の下にある砂地盤は細かい粒子の集まりで、特に比較的新しい埋め立てなどの地盤は弱く結合した砂粒子と粒子の間にたくさんの隙間があります。ここに揺れがおこると、砂の粒子同士の結合が切れて瞬間的に粒子が水の中に浮遊した状態ができる。そうすると、重い建物は沈み、軽いマンホールなどは浮き上がってしまう、というのが大まかな液状化のイメージです。揺れが収まると下部の砂粒子から隙間なく詰まった状態で堆積していき、元々隙間に存在していた水が地表へと吹き出すのです。なんで建物が沈むのにマンホールは浮き上がるのでしょうか?これは液状化した地盤の比重がおよそ2であることに由来しています。


マンホールがつながる配管中には空気が多いため、比重が2よりも小さくなる。なので、配管やそれがつながっているマンホールは地面からつき出ることになるのですね。


詳細は割愛しますが、過去の地形や土地利用履歴などからある程度可能ですが、液状化を完全に予想するのは容易なことではありません。では、液状化を防ぐ方法はあるのでしょうか?


一番効果的な方法は地盤改良です。一つは土壌そのものを細かい粒子と粗い粒子が混ざり合ったような形態にすることです。当然土壌中の粒径分布が広い方が既述した粒子結合の切断と粒子浮遊が起こりにくいのは想像つくかと思います。でもこれはかなり大がかりですね。



これ以外の方法として、SCP(サンドコンパクションパイル)という手法があります。これは、地盤にパイプをさして開けた穴に、砂や砕いた岩を入れて押し固めて、「砂杭」を作る方法です。この杭を土壌全体に狭い空間で打って地盤を締め固めることで液状化を防ぐことができます。これは、埋立地をつくるなど、大規模な地盤改良で採用される手法です。
みなさんディズニーのテーマパークの駐車場が液状化したのはご存じでしょう。でも、なんで園内は液状化しなかったのでしょう?不思議に思ったことありません?実はディズニーの園内にはこのSCP手法による地盤改質が行われており、これを行わなかった駐車場が液状化したというわけです。SCPが無かったら、今でもディズニーは復旧できなかったでしょう。


ちなみに液状化したことで建物が傾いた場合、それを復旧させる方法もいくつかあります。ただし、期間は数週間、費用は200万〜1000万円とえらく高くつきます。家を買う前には地盤などを良く考えて買う必要がありそうです。



6. 奇妙な植物の楽園ソコトラ島
アラビア半島の南端から450キロの所には、固有種を多く抱える南北40キロ長のソコトラ島という島があります。自生する植物825種のうち40%、爬虫類34種のうち90%、カタツムリ96種のうち95%が固有種で2008年に世界遺産に登録されています。このうち、かなりインパクトのあった2種類の植物をここで紹介します。


まずはドラゴンツリー。その形もさることながら、幹を傷つけると真っ赤な樹脂がとれるというのもまた神秘的です。奇妙な形は霧の水分を効率よく吸収するためと言われています。ちなみにこの赤い樹脂は「竜血」と呼ばれ、古代ローマ時代から、鎮痛剤、止血剤、染料などに珍重されていたそうです。ドラゴンツリーの写真を載せてみました(他のHPからもらったものですけど....)


そして、もうひとつがボトムツリー。これもインパクトがあります。この木は幹が瓶(ボトル)のように見えることからボトムツリーと呼ばれています。この幹の中には乾燥を防ぐため水がため込んであり、たたくと「タプタプ」と音がするそうな。本当に不思議な植物がいますね。



今、この島に行くのは難しいと思います。というのも、イエメン経由で行く必要があるのですが、イエメンは各地で反政府デモが起きており、外務省はイエメンからの全土退避勧告を出しています。政情は安定しておらず、しばらくは難しいでしょう。アラブの春ソコトラ島をより遠い存在にしているのかもしれません。



7. メガネなしで立体視 裸眼3Dディスプレイ
3Dディスプレイも大分一般的になってきました。電気メーカー各社も付加価値維持に奮闘しているのがよくわかります。現在は裸眼3Dが主力になりつつあります。


裸眼3Dのうち代表的なのは「視差バリア方式」と「レンチキュラー方式」です。視差バリア式は液晶ディスプレイの手前に「ついたて」があり、そのついたてが目隠しになって、左目と右目の像をそれぞれ目的の目に像が入るようにするもの。レンチキュラー方式は、ついたての代わりに多くの規則的な凸面をもつレンズをつけ、このレンズにより光を屈折させて左目と右目にそれぞれの画像を映すというもの。ついたてが無いため、画面が暗くならないのがレンチキュラー方式の強みです。


ただし、どちらも欠点は画面の斜め横から見ると3Dに見えないこと。これをカバーするため斜めから見る人のための像を別に流すという手法でこの欠点を解決できており、解像度や明るさも解決した製品が東芝から発売されています。
たぶん、以下の製品だと思います。
http://www.toshiba.co.jp/regza/option/gl1/index_j.htm



今月はこのくらいにします。また、来月号を読んだらこのブログでアップしますね!