2011年12月号

またまた恒例の企画です。
最近、本業のブログよりもこちらの方が定期的に更新されているような気がします。
とはいいつつ、私の記憶の定着のため、このブログを見てくださっている方々に何か科学的な興味を持っていただけるよう、かかせてもらいます。因みに国内出張は今月なかったので、今回は出張中の新幹線の中ではなく、家で書いています。



1.子煩悩な古生物
8850万年前の地層からクビナガリュウの化石が発見されたのですが、一つ発見があったそうです。


この化石は、妊娠中の親と胎児だったそうです。海に生息していた爬虫類のうち、イルカに似た姿をした魚竜は胎生であったことが知られていて、その事実を示すものが発見されたということですね。爬虫類なのに胎生って、なんか違和感ありますけど。いずれにしても、胎生で少数(1匹がほとんど)を出産して育てるということは、母性が強く、子を守りながら育てていたのでは、と言われているそうです。最近は哺乳類のホモサピエンスさえ、母性がくるってしまう人がいるくらいですが…..。まぁ、こんな話はみなさんご存じなので、ここで言及する必要はないでしょう。




2.熱してこすって3色に
東京大学の教授が、1種類の蛍光物質で、赤、黄、緑の3色を切り替えられる有機液晶を作ったとのことです。


蛍光物質とは、紫外線を当てると種々の刺激により光を放つ物質のことを言います。室温で紫外線を当てると赤色、そのままこすって摩擦熱を加えると黄色、90℃でこすると緑色、その後145℃まで消音して室温に戻すとまた赤色、となるとのこと。液晶は画面などだけではなく、熱や物理的刺激に対するセンサーにも使用でき、用途が広い。さらに、作りやすいことから画期的か?と言われているそうです。有機化学も捨てたものではないですね(私は学生の頃有機化学を専攻していた…..)!




3.毎年使えるワクチン
そろそろインフルエンザの季節ですね。私も小さい子供たちがいますので、2週間ほど前に打ってきました。ワクチンの大まかなイメージはわいている方は多いと思います。現行ワクチンの問題の一つとして、毎年流行るであろうウイルスの型を予想し、それを接種する必要がある、というのはよく知られたことです。



ワクチンはインフルエンザウイルス表面にあるタンパク質分子「HA」の一部のことを指しますが、スイスの生命医科学研究所などのグループは、年によって流行の変わるA型インフルエンザウイルス全16種類のHAに結合する抗体を見つけたとのことです。この抗体を投与するなどすれば、A型でどの種類のウイルスが流行しても、感染を防げるかもしれない、と言われているそうです。うーむ、確かに魅力的な話。一方で、そのオールマイティな抗体に耐性を持ったウイルスが出てきそうで怖い、というのが私の率直な感想です。




4.高効率発電の妙案
電力不足が騒がれて久しいですね。自然エネルギーのうち、風力に関する記事があったので載せておきます。みなさん、風力発電というと、壮大な高原や、海沿いなどに回転軸が水平になって巨大な風車がくるくると回るイメージがあると思います。ブレードが大きくなると、高い製造費、低周波騒音、景観への影響が生じてきます。一方で、回転軸が垂直な風車もあるのはご存知でしょうか。円筒形状がベースのものです。回転軸が水平なものと比較し、単独での発電効率は低いものの、回転軸が垂直なものは風車どうしの干渉が小さく、単位面積に多くの風車を設置できるというメリットがあります。そのため、設置密度を最適化することで、単位面積当たりの発電量が、従来主力の水平方向回転軸のものと比べ、垂直回転軸の場合は発電量が10倍にも達したという検証結果がでたとのこと。これからは、円筒の小型風車がそこらじゅうで見られるかもしれません。既に、目にすることは多くなってきていますが。




5.新世代の飛行機を徹底解剖
最近新聞各社でも色々と話題として上がってきていますが、B787いわゆるドリームライナー。炭素繊維を熱硬化性や熱可塑性の高分子(有機化合物)で付形した、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)という材料を多用することで軽量化と低燃費、室内環境の改善などなど….。よく知られたことが書かれていますね。


CFRPの製造会社として、東レがかなり有名で、B787にも彼らの材料が使われていますね。部品の多くも、三菱、富士、石川島播磨という重工会社がかかわっており、日本の企業の技術が最新鋭の飛行機に多く使われているのがわかります。あまりマニアックな話をしても仕方がないので、もし皆さんが乗ることになったら気が付くであろうポイントについてだけ抽出してみたいとおもいます。


まず、湿度。現行の飛行機の多くは構造材料としてアルミなどの金属を使っています。ご存じかもしれませんが、アルミは非常に耐食性が低い材料です(表面処理や熱処理などによって当然変わりますが、一般的には耐腐食性に劣る材料です)。よって、客室内の湿度は数%に下げられています。湿度を上げると客室の構造に使われているアルミなどが腐食してしまうためです。ところが、CFRP炭素繊維と高分子なので、金属よりも耐腐食性が高い。そのため、客室内の快適性を上げるため加湿できるんですね。飛行機にのると、乾燥するなぁ、と思ったことはあるかと思います。湿度は数パーセントから十数パーセントに上がるみたいです。


それに加えて、気圧。CFRPは比強度(重さあたりの強度)が高い材料ですので、客室内の気圧をより上げることができる。そのため、耳がキーンとなるあの感覚は大分改善されると思います。具体的には、今までは高度2400メートル相当の0.75気圧に調整されていたのが、高度1800メートル相当の0.8気圧まで上げられるそうです。


それと、窓枠がかなり大きくなります。既述したように、構造部材の強度が向上したため、上空での外気と客室との気圧差にも耐えられるようになりました。そのため、窓枠が1.3倍ほどに大きくなり外の景色がよく見えるようになりました。しかも電子シェードで5段階に暗さを調節できるとか。実際にアメリカのボーイング工場でB787を何回も見ましたが、最も目に付いたのは窓の大きさでしたね。



CFRPはこれから一つのトレンドとして、様々なところ(車、バイク、橋、建物など)で出てくる材料になると思います。確かにいいところもあるのですが、当然デメリットというか、弱点もあるんですよねぇ。この記事を書きながら、航空機業界のエンジニアとして、この材料と付き合っている私も色々と考えさせられてしまいます。あ、すいません。ぼやいてしまいました。




6.宇宙の最高速度光速C

これも、最近新聞で騒がしい分野の話ですよね。光速は秒速約30万キロメートル。基本的にはこの光速はどのような速さの人から見ても変わらない。だからこそ空間が縮んだり、時間の流れが観測者の状態によって「相対的」に変化するという、かのアインシュタインが発見した相対性理論に続くことになります。この理論に関して書くと話は長くなってしまうので、とりあえず光速の話を。


相対性理論の中で最も重要なもののひとつは、光速度不変の原理です。どの観測者にとっても光の速さは変化せず、そのため、どんなにものを加速させても、絶対に光速は越えられないというものです。


光速度不変の原理を含む相対性理論は「大きなもの」を扱う理論です。一方で、小さなものを扱うのが「量子論」です。現在の物理学では、この2理論を結び付けることができないという矛盾が生じており、このためブラックホール特異点での現象や宇宙誕生を正確に説明できないなど、限界があることがわっかっています。つまり、相対性理論も完璧ではないことが分かっているのです。そこで、相対性理論のほころびを検証する実験の一つとして、光速度不変の原理の検証が進んでいます。しかし、波長の違いによる速度差はある、という仮説を基に多くの異なる波長の光が生じる「ガンマー線バースト」を観測したりしていますが、現段階で光速度不変の原理を否定する結果は得られていません。



そんな中、「光速を越えた粒子発見!」という見出しが新聞にもでましたね。もし、上で書いたようなことをご存じでなければ、「ふーん」くらいかもしれませんが、少しでも相対性理論の完璧性を知っている人から見ると、これは「大事件」だということが分かるかと思います。今回、光速を越えたという結果を与えた粒子は「ニュートリノ」です。OPERA実験と呼ばれるこの試験は、CERNとグランサッソー地下研究所の間である730キロメートルの距離を「ニュートリノ」が飛ぶのに必要な時間を計測した、というもの。結果、理論上より10億分の1秒だけ早く到達し、これは光速よりも0.0025%早かったとのことです。現段階で、本結果に対して否定的な研究者が多く、ブレーンワールド理論(光とニュートリノで飛行するルートが異なる)など、色々な理論が提唱されていますが、今回の結果を否定する決め手はないようです。つい先日も、再実験で光速を越えたことを再確認、と新聞に出ていましたね。



もし、ニュートリノが光速を越えていたとすると、相対性理論でいえば「ダキオン」の可能性があるということになります。


相対性理論では「はじめから」光速よりも早いものについて、その存在は否定していません。この光速を越える速さで移動できるものを、超光速粒子「ダキオン」といい、その存在は予想されていますが、現段階で発見されていません。ダキオンは光速を「下回る」ことができず、エネルギーを失うほど加速し速度は無限大になり、質量は虚数(2乗してマイナス)という奇妙なものです。


OPERA実験結果は正しいのか?はたまた、ニュートリノはダキオンなのか?そして、ついに光速度不変の原理にほころびが生じるのか?今後のニュースで少し興味を持っていただけると幸いです。





7.栄養素は体でどう使われている?
これに関しては、一つだけみなさんにわかっておいてほしいことを書いておきます。炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルと主だった栄養素のうち、タンパク質の吸収についてお話を。


タンパク質は、牛肉、豚肉、鶏肉、魚肉などに含まれる栄養素です。タンパク質は主に小腸で「アミノ酸まで分解されて」から吸収されます。つまり、タンパク質は一度ばらばらに分解されてから再合成されるのです。豚の「モモ肉」を食べたからといって、私たちの「モモ肉」の材料になるわけではないのです。



そこで、ぜひ知っておいてもらいたいのがコラーゲン。コラーゲンたっぷりの料理で、お肌ぷるぷるは、正確に言うと間違いです。なぜなら、コラーゲンはコラーゲンとして吸収生成されるのではなく、一度アミノ酸まで分解されてしまうからです。外食産業などの話に騙されないようにしてください……。一番体にいいのはやっぱり、偏りなく色々な物を食べることだそうです。




8.天を移す鏡 ウユニ塩原
これは圧巻でした。色々なものを写真で見たことがありますが、こんなに引き込まれた写真はあまりないです。南アメリカボリビアにあるウユニ塩原は、標高3700メートルの不毛の高地に1万2千平方キロメートルの塩原です。これの何が圧巻か。それは、短い雨季に水深5〜10センチメートルになると、空を映しこむ天空の鏡にその姿を変えるのです。写真で見ると、ここは地球ではないのでは、と錯覚させられます。本当に美しい…。ただし、天空の鏡であるその姿を見せてくれるのは気象条件(特に風)、水深などの条件が合致した時のみ。さすが、自然の芸術ですね。



一方で最近になって、この付近に大量のリチウムが埋蔵されているということがわかり、開発が計画されているそうです。これに関しては、特にコメントもなく…。




今月号はこれくらいにしておきます。それではまた次回!