2012年4月号

久々の感想文です。プライベートも仕事も色々ありまして…。Newtonは毎月読んでいたのですが感想文を書いていませんでした。ちなみにプライベートも仕事もどちらかというといいことがあって大忙しといったところです。それでは、今月もトピックスを紹介します!


1.素粒子で原子炉を透視
原子炉だけをターゲットにしたわけではないみたいですが、ミューオンという素粒子を使って大きな構造物の内部を透視する技術が注目されているとのことです。ミューオンは宇宙から飛来する陽子などの粒子が地球の大気と衝突する際に生成される素粒子で常に地球に降り注いでいます。



ミューオンは非常に貫通力が高いのですが、密度が高く、厚みのある物質で一部のミューオンは貫通できずに遮られます。これはX線をつかったレントゲンと同じことで、投下してきた素粒子の量によって非破壊検査ができるようになります。ミューオンをとらえるのには原子核乾板が使われています。ミューオンが通過すると細く黒い線があらわれます。


本手法による検査は電源が不要で多点からの同時測定が可能というメリットがある一方で、この黒い線の読み取りに膨大な時間がかかっていました。しかし最近、名古屋大学の研究室が高速度カメラを用いてニュートリノの反応を捕まえ、乾板の自動読み取りするシステムを開発しました。これを、ミューオンの乾板読み取りに応用することで実用化の目途がたってきたとのことです。



この手法の応用が期待されているのが原子炉の内部観察です。放射線の非常に高い原子炉内部を撮影するのは困難であるため、非破壊検査方法が求められていました。ミューオンを用いた透過検査により、原子炉内に燃料棒があるかないか程度の情報を取得することに成功したとのことですので、今後この分野での適用拡大が期待されます。


2.書き換えられる不確定性原理
量子論と聞いて、どのようなイメージを持たれているでしょうか。量子論の生み出した最大の成果物として半導体があります。すなわち、パソコン、携帯電話、LED、太陽電池など、身の回りにあふれているものもこの量子論のおかげなのですよね。量子論は、素粒子など、極めて小さいミクロな粒子の振る舞いを説明する理論です。宇宙もその昔は非常に小さな空間からはじまっていることが理論的に分かっていますね。この宇宙誕生の瞬間付近の極めて短い時間は、ミクロなふるまいを議論する必要があり、そのときはこの量子論を適用します。





さて、この量子論の大原理の一つ「不確定性原理」が大幅に見直される可能性が出てきました。長い間信じられてきたハイゼンベルク提唱の不確定性原理の問題点を指摘し、より正確な理論を構築した人がいます。その人は名古屋大学小澤正直教授です。小澤教授は小澤の不等式という不確定性原理の修正版を2003年に発表し、この正しさが実験によって最近確認されたとのことです。



ミクロな世界では、我々の想像とことなることが普通に起こります。詳細は量子論に関して解説しているようなホームページや書籍をご覧になるのがいいと思います。ここでは、不確定性原理に関連するところを抜粋します。ハイゼンベルクは「電子のようなミクロな粒子の位置と運動状態(運動量)を同時に、正確に知ることはできない」という主張をしました。これが不確定性原理の始まりです。



どういうことなのか、思考実験の一例が紹介されています。ある物体の位置を知るには光(電磁波)をあてる必要があります。光を当てた時の反射した光をとらえることでその物体の位置を特定することができます。これは当然ですよね。



一方でミクロな粒子(例えば電子)の位置を知るために光をあてると、粒子そのものが非常に小さいため、光の微弱な弾き飛ばす力を無視できなくなり、位置を知ろうとすることでミクロ粒子の運動が乱されてしまうのです。これにより、それ以前のミクロ粒子の運動量が分からなくなってしまいます。波長が短く、エネルギーの高い光ほど精度よくミクロ粒子の位置を特定できますが、エネルギーが高いため粒子の運動を乱す力も増し、より運動量がわからなくなる。一方で、運動の乱れを避けるために波長の長い光を使うと、今度は位置を特定する能力が低下し、ぼやけてしまう。運動量は乱されませんが、今度は位置がわからない、ということになるのです。



この量子論発展の歴史の中で、「量子測定理論」というのが確立されます。これは前述した小澤教授が確立した理論です。これは、重力波などの極めて微小な空間の変化をとらえるのに使用される干渉計の精度限界を突破できるという理論とのことです。これにより、観測精度が上がり、今まで正しいといわれていたハイゼンベルクの理論に綻びがあることが急浮上してきたのです。すなわち、これまでハイゼンベルクの理論の妥当性を検証するのに必要な観測精度がなかったのです。これを機にハイゼンベルク不確定性原理の検証が始まることになります。



前置きが長くなりましたが、長い研究の末、小澤教授は小澤の不等式を2003年に発表します。これはハイゼンベルクの理論に、位置と運動量の「ゆらぎ」という項をそれぞれついかしました。ゆらぎとは、測定対象のミクロ粒子がそもそも持っている不明確さ、というイメージだそうです。



そして、2012年1月。この小澤の不等式の妥当性を精度よく検証し、小澤の不等式の正しさを証明し、発表した人がいます。この人は、ウィーン工科大の長谷川祐司準教授です。中性子のスピンの向きと大きさを測定することで不確定性原理の検証実験を実施し、結果として80年以上正しいと考えられてきた理論の修正の妥当性を証明したのです。




これが、今年の新聞でにぎわった内容ですね。小澤の不等式の正しさが証明されたことで、量子論はさらに進化し、量子情報学というのが大幅に前進するといわれています。量子コンピューターによって現在のパソコンで何億年もかかる計算を一瞬で終わらせたり、量子暗号技術によって盗聴を検知するシステムの開発が可能になったりと、私たちの生活もかわるかもしれません。今回の不確定性原理の修正に関し、かかわっていたのはすべて日本人。嬉しいことですね。




3.宇宙の法則

これが今月号の特集でした。

身近で遠い宇宙の法則のおさらいをする内容でした。細かいところはご存じなところも多いと思いますが、概要を説明します。

I. ケプラーの法則

  • 惑星の軌道は完全な園ではなく、少しつぶれた楕円である(第一法則)。
  • 惑星と公転の中心となる星を結ぶ線分が一定時間になぞる面積は必ず同じ(面積速度は同じ)になる(第二法則)
  • 惑星が公転の中心となる星を一周する時間の2乗は、楕円軌道の長いほうの半径の3乗に比例する(第三法則)

上の三法則がケプラーの発見したものです。これによって、惑星の軌道に対する考え方が大幅に前進しました。



II. 万有引力の法則
互いを引き寄せ合う万有引力は、物体の質量が大きいほど強くなる。また、万有引力は物体間の距離が離れているほど距離の2乗に反比例して弱くなる。

これは、とても有名な法則ですね。


この法則ができたため、地球の周回に必要な速度などもわかるようになり、のちに人工衛星の成功につながることになります。また、ニュートンは1687年に人工衛星が誕生することを予想していました。先見性がある方ですね。




III. 運動量保存の法則
複数の物体が衝突したり、一つの物体がばらばらになったりしても、外から力が加わらなければ。変化の前後で運動量の合計は変わらない。運動量には向きがあるが、すべての方向について運動量は保存される。


これは宇宙というよりも、身近な運動に関する哲学者デカルトが生み出した法則ですね。ロケットが宇宙空間でガスを噴出するとその逆方向にロケットは動くことができますね。



IV. 角運動量保存の法則
物体の質量、回転速度、回転半径の積は一定である。質量が変わらない場合、回転半径が小さくなるほど回転速度は速くなる。逆に回転半径が大きくなるほど回転速度は小さくなる。



アントニー・ヒューイッシュが発見した回転速度がきわめて速い奇妙な天体を発見したことを契機にわかった法則です。フィギュアスケートのスピンの時、回転半径を小さくする(手を上に持ち上げたり、胸の前で組んだり)と、回転速度が大きくなるのをみたことはありませんか?今世界フィギュアやっていますので、確認してみてください。意外と身近な法則ですね。




V. ウィーンの変位則
物体が放つ最も強い光の波長が短いほど物体の表面温度は高い。逆に波長が長いほど表面温度は低い。2898000を最も強い光の波長で割ったものが表面温度である。


青い星の方が表面温度が高く、赤い星の方が表面温度が低いというのを最初に知った時に、なんでだろう、と思ったものです。光のエネルギーは周波数に比例する(波長に反比例する)と考えれば自然なことですね。




VI. エネルギー保存の法則
エネルギーには種類があり、互いに形を変えることができる。形を変えてもエネルギーの出入りのない一つの入れ物の中では、エネルギーの総量は一定に保たれる。



これも言うまでもなく有名な法則ですよね。最近地震がよくおこりますね。この地震のそもそものエネルギー根源はどこから来たのでしょうか?これは地球が産まれるまでに多く衝突した惑星たちの運動エネルギーなのです。この運動エネルギーが熱などで蓄えられて火山活動が起こり、地球中心付近で高熱状態が保たれている一方、熱エネルギーの一部は運動エネルギーとして地殻変動を起こし、地震が発生するというわけです。光速の巨大な惑星たちの運動エネルギー由来のエネルギーでは、一つの国中が揺れるような地震が起こっても不思議ではないですね。




VII. エントロピー増大の法則
エントロピーはSとあらわされる。デルタは変化後のエントロピーから変化前のエントロピーを引いた差を意味する。その差が正の値となるということは、変化後のエントロピーは変化前より増えているということである。



エントロピーは「乱れ」を示す指標の一つです。部屋の中に子供がいると、時間の経過とともに乱雑になり、汚れていきますね。どんどんきれいになっていく、すなわち整然となっていくことはまずありません。この乱雑になったり乱れていったりすることは、エントロピーの増大と同じ意味合いです。私の勝手な例なので正しいかどうかは分かりませんが、イメージとしてはあっているでしょう(笑)。




VIII. E=mc^2
質量とエネルギーは入れ替わることができる。この関係を等価であるという。Cは光速をあらわし、その値は秒速3×10E8メートルときまっている。そのため、物質の質量さえ分かれば、その物質が持つエネルギーの大きさを計算できる。



アイシュタインが生み出した法則のうち、最も有名な物の一つではないでしょうか。今話題の原子力発電も、太陽が熱を生み出すのも、この理屈で説明できます。原子力発電は、放射性物質が崩壊をして自らの重量が減少し、その重量の減少分発生するエネルギーで発電します。原子爆弾もこの理屈から生み出されるものです。アイシュタインは、原子力に応用されてしまったことで苦悩したという話も聞いたことはありますが……。



IX. 一般相対性理論
一般相対性理論の基本的な式は、アインシュタイン方程式。時空の曲がり具合を説明する式。



この感想文を書くなかで何回も登場していますね。詳細は割愛しますが、ケプラーの法則で説明しきれなかった実測との微小な誤差を説明することに成功した理論です。



X. ハッブルの法則
銀河までの距離が遠いいほど遠ざかる速度は速い。この比例関係の係数がハッブル定数である。最近の観測結果によるとハッブル定数の値は73.8+/-2.4 [km/(s*Mpc)]と報告され、宇宙の膨張度合を示している。



現象はこれで説明されていますが、未だに膨張加速のエネルギー源(媒体)がわかっていない理論ですね。ダークマターによるもの、との仮説もありますが証明されていません。現在も最前線で多くの科学者がこの膨張の仕組みを解明しようとしのぎを削っています。





4.東京ゲートブリッジ
2012年2月12日に一般道として開通した東京ゲートブリッジ。実はこの橋は色々な最新技術が使われているらしいです。


東京ゲートブリッジの最大の特徴はそのコンパクト構造。大型船や航空機が行き来する環境であるため、構造を小さくする必要があったのが背景にあるとのことです。東京ゲートブリッジは三角形を作るように材料を組み込むことで重さを支える「トラス構造」をベースに設計されています。



「大型船が通れるように橋脚の間隔を大きくとり、橋げたを高くする」、「羽田空港をり発着する航空機の障害にならないように橋全体を低くする」ということを条件に作られた橋です。



東京湾は地盤が弱いため軽量化が一つ目のキーワードでした。橋げたをコンクリートではなく金属に変更し、接合部分をボルトではなく溶接にする、また床板と道路を一体化するなど10%の軽量化に成功したとのことです。


もうひとつは地震対策。主橋脚とトラスの間には2種類の特殊なゴムからなる免震構造を有しています。1つは荷重支持板、1つはバッファーです。荷重支持板は主橋脚とトラスの間では固定されておらず、バッファーは両者で固定されている。揺れが起こった時、荷重支持板は摩擦力で揺れを制限し、バッファーは揺れる範囲を制限する。この相乗効果で必要以上に橋が揺れるのを防ぐ。



また、ひずみセンターが各所につけられており、橋にかかる力をセンサーでモニタリングしています。



人は通れませんが、機会があったら一度行ってみたいですね。





5.電池
これはトピックスを一つに絞らせてください。充電池です。



充電池にはニッケル水素とリチウムイオン、両者の充電の好ましいタイミングは異なることをご存じでしたでしょうか。実は、リチウムイオンは頻繁に充電した方がよく、ニッケル水素は使い切ってから充電した方がいいのだそうです。ニッケル水素を使いきらないで充電すると、容量が少ない状態が満タンと記憶するメモリー効果という現象が生じてしまう。リチウムイオンはこのようなメモリー効果はほとんどなく、むしろ放電や充電をしきってしまうと電極の化学構造が変化して電池の性能が落ちるとのこと。みなさんも電池のタイプを理解したうえで使うようにするといいですね。






今月はこのくらいにしておきます。
また、来月感想文を書きたいと思います。