2012年9月号

恒例の感想文です。


本題の前に、一つ小さな話題を。
タブレット買いました。
スマホはもっていません。
業務中、携帯電話をきっていなくてはいけない環境にありますので、
パケット定額だけで、5000円近く払うことはちょっと抵抗があります。

今の携帯料金は奥様と二人で月7000円弱です。


購入したのはASUSのTF300Tです。
タブレットと別に脱着可能なモデルになります。
OSが使いなれたWindowsではないため、まだ不慣れです。
書けるスピードはWindowsの半分以下になっています。
スマホを導入せずに避けてきた「つけ」だと思っています。

このモデルは、当然ながらタブレットとしても使えるので、
キーボードを取り外して持ち運ぶことを優先にするこ
ともできます。

少しずつでも慣れていければな、と考えています。
画面をタッチすることでコマンドを選択できたり、指を動かして拡大縮小、スクロールができるのは使い勝手という観点からやりやすいですね。


とりあえず、本題へ。



1. レアメタルフリーの電池


 蓄電池として一般的に広く用いられているのは、リチウムイオン電池です。しかしながら、リチウムはレアメタルの一種であるため、まとまって産出されにくい元素です。レアメタルでは輸出制限をかける中国との摩擦などが記憶に新しいですね。そんな中、東京理科大学の薮内直明博士らは、レアメタルーの「ナトリウムイオン電池」を開発しました。ここに使われている元素は、ナトリウム以外に鉄、マンガンを組み合わせ、層状構造をもつ材料をつくりました。さらに、この電池はリチウムイオン電池の2倍の容量があるという結果が出ていることから、次世代の蓄電池として期待されます。




2.昆虫小型化のわけ


 約3億年前、羽の長さが70センチメートルにも達するトンボなどの巨大昆虫が繁栄していました。もともと巨大な昆虫は消費酸素量が大きいため、大気中の酸素濃度と昆虫の大きさに相関があると推測されていました。両者の関係について化石を用いて調べたところ、3億1800万年前〜1億4600万年まえまでは酸素濃度と昆虫の大きさに相関がみられたものの、それ以降は酸素濃度が変化しないにもかかわらず昆虫の小型化が進行したことがわかったそうです。これは、1億4600万年まえの白亜紀以降から鳥類が出現・進化し、昆虫の大きさを制御する要因が酸素濃度から、捕食されにくさへと変化したとかんがえられるそうです。




3.宇宙空間に1年半いても死なない生物


 生命は宇宙から飛んできて、それが地球すべての生命の源になったという考え方があり、「パンスペルミア説(pan-spermia)」と呼ばれています。しかし、ご存じのとおり宇宙空間は地球の周りであっても、太陽光が当たる側は超高温、反対側は超低温、そしてそもそも真空という極めて厳しい環境にあります。もし人間が宇宙空間に裸のまま飛び出すとどうなるでしょう?


こたえは、真空空間なので自分の体温で血液が沸騰し、あっという間にゾンビになると聞いたことがあります。当然内圧も持っているから破裂もすると思います。考えるだけで恐ろしい。


さて、そんな環境であっても生きられる生物の候補として、地球上に存在する「地衣類」が注目されています。これは、地球上の厳しい環境でも生きられる生物として知られているからです。地衣類とは菌類と藻類からなる共生生物です。このため、厳しい環境に根付く菌類の能力、自らエネルギーを生み出す光合成をする藻類の能力を兼ね備えています。

イタリアのトゥーシア大学のシルヴァノ・オンフリ博士らは、国際宇宙ステーションの外側で10日間の宇宙空間予備暴露実験で合格した地衣類や菌類、4種類が選ばれ、なんと1年半もの間宇宙空間に暴露されました。暴露したときは真空の容器に入れられ、放射線や紫外線を遮らないもの、両者を99.9%遮るもの、100%遮る、という3条件の容器にいれたそうです。

暴露後、顕微鏡で観察したところ、放射線や紫外線を遮らない環境でさえも、繁殖能力は失ったものの、40%もの光合成能力を保持した地衣類がいました。これは、「キサントリア・エレガンス」というものです。スイスアルプス山脈に生息しています。


これにより生命が宇宙からやってきたと結論できるわけではありませんが、可能性がゼロではなくなったということは言えなくもないでしょう。現在国際宇宙ステーションではエアロジェルのトラップを宇宙空間に仕掛け、宇宙塵を回収して生命の痕跡がないか解析する、という作業が行われています。どのような結果が得られるか、今から楽しみですね。



4. ヒッグス粒子とは何か


今となってはちょっとした古新聞になってしまった内容ですが、このニュートンを読んでいた2012年8月当時はとても大きなニュースとして取り上げられていました。「ヒッグス粒子とみられる新粒子が発見された」というニュースは、すこしでも素粒子を知っている方々、ならびに興味を持っている方々からすると、いかに大きな話であったか想像できたと思います。


CERNには一周25キロメートルもある素粒子加速機があります。これは、素粒子をこの世の最高速度である光速に近づけて衝突させる装置です。莫大なエネルギーを有する素粒子同士がぶつかることで新しい素粒子が発見され、素粒子学は進化を続けてきました。そんな中、2008年から稼動している最新の加速機がLHC(Large Hadron Collider; 大型ハドロン型衝突試験機)です。この加速機はこれまで稼動してきた加速機の中で、最高レベルの加速性能を有しており、これにより新しい素粒子が発見されると期待されていました。そんなおり、見事に最後まで研究者達の追跡をかわしつづけたヒッグス粒子が発見されたというわけです。すべての原子は電子、アップクォークダウンクォークという三種類の素粒子からなる、という基礎理論からなる素粒子物理学の中で最後まで発見されずにいたのがヒッグス粒子でした。



ヒッグス粒子は万物に質量を与える素粒子です。光子を除くすべてのものは、空間に充満しているヒッグス粒子の影響により動きにくい状況になっている。これが質量だといわれています。もしヒッグス粒子が存在しないとしたらどうなるでしょうか?電子、アップクォークダウンクォークといった素粒子達の質量がなくなり、すべて理論上の最高速度である光速で飛び回れるようになってしまいます。つまり、原子として存在出来なくなるということになります。


そうすると、私達の体はもちろん、地球さえも存在できなくなります。すなわち、今、身の周りに存在しているという事実を説明するためには、ヒッグス粒子は必須のものなのです。



さて、ヒッグス粒子が発見されたとき、CERNが発表したコメントでは「長年探索してきたヒッグス粒子だと考えて矛盾のない粒子を、CERNの実験で観測した」と書かれています。なぜ、「ヒッグス粒子発見!」と大々的に書かなかったのでしょうか。



実は、ヒッグス粒子は一瞬のうちに別の粒子へと姿を変える、すなわち崩壊するためです。ヒッグス粒子が崩壊すると、2つの光子ができる場合があるということが理論的にわかっています。今、CERNで行っているのはこの光子を観測するということです。



一つやっかいなのは、光子が2つ発生するという崩壊はヒッグス粒子だけではない、というところです。ここで重要なのは、2つの光子がもつエネルギーの合計値である。加速機の中で生成されたヒッグス粒子のエネルギー(質量)とそのヒッグス粒子の崩壊でできた2つの光子のエネルギーの合計値は同じとなる。



ヒッグス粒子の探索とは、加速機の中で二つの光子が生成された例をしらみつぶしに探し、そのもとになった崩壊前の粒子の質量を求めるという地道な作業を積み重ねていくことです。


LHCにはATLUSCMSという2種類の検出評価設備がありますが、(これは、ことなる2種類の検出機で結果を検証することでその妥当性を客観的に判断することを目的としています)1.1京回(1100兆回)の衝突試験の結果、どちらの検出機においても125〜126GeV付近に新粒子と思われるものを観測した、という結論に達したそうです。


素粒子物理学の世界では、検出(反応)の集中が偶然の偏りによって起こる確率が0.00003%以下であれば(信頼性確率が99.99997%以上であれば)新粒子発見として判断できるという基準があるそうです。上述の試験結果はこの条件をほぼ満たしているそうです。


ここから先は少し細かくなってしまいますが、科学的には重要なところですので簡単に述べておきます。ヒッグス粒子の質量が125GeVだとすると、13通りもの崩壊パターンがあると予測されています。そのうち、CERNは主に5通りのうちのどれかである考えています。この5通りの可能性というのは、具体的には「二つの光子に崩壊」、「二つのZ粒子に崩壊」、「二つのW粒子に崩壊」、「タウ粒子と反タウ粒子に崩壊」、「ボトムクォークと反ボトムクォークに崩壊」の5通りです。


これら崩壊のパターンを詳細に分析することにより、「ヒッグス粒子とみられる新粒子が、標準モデルで説明がつくのかそうでないのか」がわかるそうです。もし標準理論で説明できないとなると、新たな理論が必要になり、これは物理学の革命の始まりになる可能性もあります。



質量を生み出すヒッグス粒子。候補となる新粒子の発見であらたな理論が構築されたとすると、私達はとても貴重な局面をリアルタイムでみられているのですね。今後が楽しみです。





5.宇宙の見えざる影の支配者「ダークマター

とっつきにくい話が続いて申し訳ありません。わたしも、前項でもでてきた素粒子物理学や、ここでお話する宇宙論はちんぷんかんぷんでした。ただ、ニュートンのおかげでイメージはわくようになると、けっこう面白いんです。ここでは、どんな望遠鏡をつかってもみえない、でも重力によって様々な天体に影響を与えている。宇宙にはこのような影の支配者が存在する。これこそがダークマターです。


未だにその全貌がわからないダークマターを紹介します。



ダークマターの存在に研究者が気がついたのは1930年代です。スイスの天文学社であるフリッツ ツビッキーは、1933年に地球から3.2億光年はなれたところにある「かみのけ座銀河団」の質量を計測しようとしました。この際、「光度質量」と「力学質量」の二通りの方法で調査しました。「力学質量」はその銀河団の運動の速さを調べ、その速さでもバラバラにならないために必要な重力を計算し、間接的に質量を求めるものである。一方の「光度質量」は、質量と明るさに比例関係がある、という性質をつかって明るさから質量をもとめるものです。



ここで2つの質量には大きな差がみとめられました。力学質量が光度質量よりも400倍もおおきかったのです。ツビッキーは力学質量が正しいと信じ、こう考えました。「かみのけ座銀河団には゛みえない物質゛の重力のおかげで銀河団内にとどまている。」このみえない物質こそ、ダークマターです。


ダークマターの存在を暗示する測定したのはウ゛ェラ ルービンです。ルービンは銀河の中心に近いところを回転するガスの回転速度と外側の回転速度を比較していました。この速度の観測には光のドップラー効果を応用しました。観測者にたいして近づいて来る光は波長が短くなり、遠ざかる光は波長が長くなるというものです。


想定された結果は、中心付近ほど重力が強いのでそれに釣り合う遠心力が必要のため、中心付近のものほど早く回転しており、外側に行くほどその逆のことがおこると想定されました。


しかしながら、実際は中心も外側も回転速度に大きな差は認められず、これは複数の銀河で観測されました。この不可解な事実にたいし、ルービンは「私達にはみえない物質が、銀他全体に広がってガスに重力を及ぼしているため、中心から遠くにあるガスも、中心に近いガスと同じくらいの速度で回転するのではないか」。この後、ダークマターは研究者の間で注目される存在となっていきます。


ダークマターの観測は困難を極めました。波長が短いものから長いものまで、ガンマ波、X線、紫外線、赤外線、電波、今現在でも、観測は成功していないそうです。ダークマターの候補としてブラックホール褐色矮星があげられたことがあります。しかし、いずれの候補についても想定されるダークマターの総重量の10%以下程度しかなく、候補からは外れることになります。


根本的な話として、ダークマターは原子なのか、そうでないのか、という議論があります。それについても、この世に存在する陽子や中性子の総量も想定されるダークマターの20%程度しかなく、宇宙のちりやガスではないか、という考えも否定されることとなります。



また、ダークマターは宇宙にまんべんなく分布していることもわかっています。このことから、ダークマターはどんなものもすり抜けるという性質を有することがわかりました。なぜなら、衝突をする場合、衝突する場所に留まり、分布が不均一であるからです。


一方でどんなものでもすりぬけるニュートリノも候補となりますが、その総重量も、ダークマターの想定される総重量の7%程度しかなく、候補からはずれました。




ここで、ダークマター研究の最前線に話をうつしていきます。


1985年、イギリスのカルロス フレンクたちは、「宇宙の小さな構造である、星や銀河をつくる中心的な役割を果たしたのは、ダークマターである」という仮説を発表しました。この仮説のシナリオは、ダークマターが他の場所よりわずかに多く集まる場所が偶然できる。すると、そこは重力が強くなるのでダークマターが近寄りやすくなり、どんどんダークマターの密度が濃くなる。これにより、原子からなる物質(ガス)も重力に引き寄せられ、やがて収縮していく。これが銀河の種になるというわけです。


ここで、この仮説を成り立たせるためにとても重要な条件があります。それは、「ダークマターが冷たい物質である」ということです。温度が低い空気ほど、当然空気中の分子の速度は遅くなる。同じ考えで、冷たいダークマターは速度が遅い粒子からなるということになる。


逆に速度が早くなると、粒子の動き回る範囲が広くなり、狭い範囲にとどまっていられなくなる。もし、ダークマターが熱い物質ならば今の銀河集団を形成することは不可能となるということになります。



ニュートリノは候補からは外れた、と述べましたが、ニュートリノはその総重量が足りないということに加え、ほぼ光速度で飛び回る熱い粒子です。この観点からもニュートリノは候補からは外れることになります。



2003年には、ダークマターが銀河の種になったという事実を確かめるため、ハッブル宇宙望遠鏡、スバル望遠鏡等を用いて、ダークマターの3次元的な分布の調査を行うCOSMOS(Cosmic evolution survey)プロジェクトが始まりました。重力レンズ効果を用いたこの観測プロジェクトによって、銀河の3次元的マップとダークマターの3次元マップはほぼ一致することがわかってきています。




最後に、今現在の研究最前線でダークマターの候補ではないか、と考えられている粒子を紹介して本項を終えたいと思います。



まずは、陽子の1000倍の重さをもつ「ニュートラリーノ」です。ニュートラリーノは理論上その存在が予言されているものの、未だに発見されていない「超対称性粒子」と呼ばれる素粒子の一員です。超対称性粒子は、電子などのあらゆる素粒子にたいしてそれぞれペアを組む素粒子の総称です。ニュートラリーノはその重さゆえに動く速度も遅く、ダークマターの性質にもあいます。もし、ニュートラリーノダークマターであるとすると、密度は1000立方メートルあたり、1個程度である。その他、電気を帯びず、光をださず、他の物質ともぶつかりにくい、というダークマターに必要な性質を備えている。



もう一つの候補は、「アクシオン」と呼ばれる素粒子です。これもまだ未発見の粒子です。アクシオンは強い磁場の影響を受けると光子になるという性質があります。アクシオンニュートラリーノと比較すると非常に軽い粒子で、もしこれがダークマターであるとすると、密度は1000立方メートルあたり、1兆個の10万倍程度の個数存在するそうです。この素粒子についてもダークマター候補となりうる性質を備えています。



今回の感想文はこのくらいにしておきます。次回ダークエネルギーに関してご紹介できたらと思います。