2013年9月号

気が付いたらNewtonの感想文を書くのに数か月もあいてしまいました。申し訳ありません。毎月ちゃんと読んではいたのですが感想文をサボってしまいました。今月からまた、頑張っていきます!


1.糖尿病の根治に道

インスリンを出す膵臓の組織である膵島の移植は糖尿病の治療法の一つとして期待されています。しかしながら、移植した膵島が機能しないことが多く、問題として認識されています。福岡大学の米良利之博士はマウスを用いた実験で、移植した膵島がHMGB1というたんぱく質を出し、膵島が拒絶されることを発見しました。博士はさらに研究をつづけ、HMGB1がでるきっかけとして、膵島が低酸素状態になり、その結果カルシウムイオンが水王の細胞内に流れ込むことが主因であると突き止めました。

この対策としてSEA0400という物質を用いると膵島のカルシウムイオンが細胞内に流れ込まないようになり、結果として膵島の拒絶が無くなることを発見しました。これは人の膵島移植改善につながるものと期待されています。




2.始祖鳥はやっぱり鳥?

中国の北部の地層から鳥の特徴を持つ生物の完全な化石が発見されました。この化石は1億5千万年前のものです。この生物は「アウロルニス・シェイ」と名付けられ、これが初期の鳥類への進化過程を検証する重要なデータを提供できる可能性が高くなってきました。検証はこれからですが、結果によっては始祖鳥が鳥の始祖である、ということを裏付けるものになるであろうと言われています。




3.iPS細胞のストック計画が本格的に始動

iPS細胞は体中のあらゆる種類の細胞に変化できる能力を有するさいぼうですが、作製に半年、目的の細胞に変化させるのに数か月かかるという難点があります。そのため、必要な時に必要な細胞を提供するにはiPS細胞を備蓄しておく必要があります。現在京都大学iPS細胞研究所にてこのiPS細胞ストック計画が進められています。


現在京都大学で進められているのは、他人の細胞を移植するものが主であるため、他人に移植しても拒絶反応が起きにくい細胞の型(HLA型)を持つ細胞からiPS細胞を作るのが望ましい。血液に血液型があるように細胞にも細胞型があり、これがHLA型と呼ばれるものです。HLA型は数万種類あります。


通常、人のHLA型は父親と母親から提供されます。そのため、2種類のHLA型を持つのが普通ですが、まれに(日本人の数%)1種類のHLA型しか持たない人がいます。当然、異種類のHLA型の細胞の方が拒絶反応の確率が低いため、日本人に最も多いHLA型のみを有するiPS細胞を備蓄できれば、日本人全体の約20%に移植できるようになると言われています。


とはいえ、最大のネックはこのストック作製には多大な人と時間が必要であり、今の状態だと年間3〜4ドナー分の作製が限界とのことです。そのため、まずは可能な限り多くの日本人に適用できる型に注力して細胞備蓄を進めているのが現状のようです。




4.恐竜学の研究最前線 ティラノサウルス

2億5千万年前に誕生し、6600万年前まで大繁栄をした恐竜。その末期に最上位に君臨し、今や恐竜の代名詞といえるティラノサウルス。なぜこれだけメジャーなのかというと、状態の良い化石発見数が多いということに由来しているようです。最新のティラノサウルス像に迫りたいと思います!

鼻先からしっぽまでの長さは大きなもので13メートル、肩までの高さは4メートル、重さは6トンという最強の肉食恐竜は、実は羽毛が生えていた可能性が高いというのが近年の解釈のようです。2005年にはこれまで見つからないと考えられてきた血管や細胞の痕跡が見つかり、羽毛が生えていたようである、というのが常識になりつつとのことです。

  • 恐竜に最も近い現生の生物は鳥?

意外に知られていないことですが、今身近に飛んでいる鳥は恐竜と同じ祖先をもっています。恐竜類の中で恥骨が後ろを向いている鳥盤類と恥骨が前を向いている竜盤類で別れたのち、竜盤類は4足歩行の竜脚形類と二足歩行の獣脚類と鳥類に分かれるのです。なんと、ティラノサウルスジュラ紀まで鳥類と一緒の分類だったのです。ただし、ティラノサウルス類自体もかなり広く、手が小さくて頭が大きいという特徴に当てはまらないティラノサウルス類が発見されるなど、いまだティラノサウルスについて謎は多いままです。

今後、鳥のDNAを研究することで恐竜のDNAがわかると期待されています。


現段階でいわれているティラノサウルス類の移動の軌跡としては、ヨーロッパで誕生し、アジアで進化、その後北米で巨大化したというものです。イギリスで発見されたプロケラトサウルスが最も古く、アジアに移動後ディロング、タルボサウルスなどが誕生。そして、最終形が北米で巨大化したティラノサウルスレックスです。ティラノサウルス類というのは世界中で発見されており、ヨーロッパ→アジア→北米となるにつれ巨大化していることがわかっているそうです。


アメリカ、ノースカロライナ州立大学のメアリーシュワイツァー博士は、1992年に恐竜の骨の微細構造を研究していた際、偶然赤血球に似た赤い粒を発見しました。この赤い粒は後に酸素を運ぶのに必要な「ヘム」という物質を含むことが判明し、赤血球である可能性が高まっています。また、これをきっかけに化石の骨の内部を薬品を使って調べたところ、軟組織が発見されました。これは恐竜ではなく、細菌によるものではないか、という話もあったようですが、恐竜の組織である可能性が高い、というのが今の多くの研究者が考えだそうです。


  • ジェラシックパークは可能か

軟組織が採取されたことで、DNAの採取の挑戦が始まっています。DNAは極めて分解されやすい物質であるため、シュワイツァー博士は発掘現場に実験棟を組み立て、発掘した化石をすぐに分析した。結果、DNAが分解されてできる核酸がみつかったものの、DNAの情報を得ることはできなかった。DNAが、今後完全な形で採取できれば恐竜と類似した生物を生み出せる可能性はあるとのことです。

  • 恐竜は何色だったのだろうか

恐竜が何色だったのか、というのは化石からだけではわからない、というのが常識でしたが、2006年イカの研究をしていたヤコブビンター博士が、イカスミに含まれる小器官「メラソーム」に似た粒子が化石に残っていることを発見しました。メラソームの形(細長い、丸い)、配列の仕方(ランダム、規則的)などである程度の色調を予測できます。これによると、鮮やかに描かれてきた始祖鳥も白と黒の色合いであったのではないか、と考えられています。


  • あごの力は史上最強

ティラノサウルスのあごの力はとても強く、6トンにもなったと言われています。これは獲物の骨をかみ砕くのに十分な力で、実際にティラノサウルスの分の化石から他の恐竜の骨が発見されることがあります。ちなみに人が噛む力は最大0.1トン(100キロ)程度。単純計算で60倍ですね.....。

現段階でティラノサウルスがどのくらいの速さで走ることができたのかについて、結論は出ていないようです。最も遅い推定が時速18キロ、早いものが時速30キロといわれています。イメージ的にはティラノサウルスはハンターですが、腐肉をあさる「腐肉食動物(スカベンジャー)」の可能性も高そうです。やはり巨体を走らせるには多量の筋肉が必要で、あまり速く走れなかったのではないか、というのが正しいような印象を受けました。

  • 脳の形が判明し、非常に鼻がよくきく動物だった可能性がでてきた

化石のCTスキャンの結果から、ティラノサウルスの脳の形がわかってきました。その結果、ティラノサウルスは嗅球といわれる嗅覚をつかさどる器官がとても発達していたようです。これはハンターが多く備える性質であるため、ティラノサウルスはハンターである、と考える研究者も多いようです。また、目の位置も顔の前面にあり、空間認識能力が高かったと推測されることから、目と鼻はハンター向きと考えられているようです。

  • 恐竜の成長速度は非常に速い

骨の断面の観察結果から、ティラノサウルスの成長速度は10代で極めて速くなり、20代ではあまり成長せず、30歳程度で寿命を迎えたといわれています。10歳を超えて成長期に入ったティラノサウルスは15歳までの5年間でほぼ完全な体の大きさになったと考えられており、この成長期における体重増加量は一日5キロ、1年間で1.8トン増えたと考えられているようです。恐ろしい食欲だったのでしょうね。




5.生体と機械のハイブリットを目指して

機械工学出身で、生命科学を取り入れて新しい分野を開拓する竹内昌治准教授が特集されています。この方はなかなか面白い取り組みをされていますね。

元々は機械工学科で昆虫を見ながら、昆虫に近いロボットを作ろう、というテーマに取り組んだものの、生物があまりに複雑な構造であったため発想を転換し、昆虫に電気回路を載せて「ロボット化」しよう、というのが始まりとのことです。この発想の転換力は素晴らしいですね。私も見習いたい....。


この発想の転換から始まり、細胞を機械部品のように扱い、細胞を「組み立てられないか」と考えるに至り、マイクロ流体デバイスといった細胞の集めた部品を作ることに成功しています。


このように細胞をある程度制御できるようになれば、それを組み立てて形を作ったり、狙いの性能を発揮させることもできるようになります。竹内氏が考えてるのは、人口のお肉や野菜が作れないか、ということだそうです。すべての食物は細胞が組み合わさってできてる、そのため自由に細胞を組み立てられる術を見出すことができれば、自由に食物を作ることができ、それが結果として極地での食糧提供ということにつながるのではないか、と考えているそうです。



さらに、竹内氏は生体になじみやすい「ハイドロゲル」という材料を開発し、その材料に血糖値に応じて発行する発行物質をいれました。この材料をマウスの耳の部分に埋め込み、4か月以上にわたり、血糖値のモニタリングをすることに成功しました。


血糖値を管理するため、一日に何度も指に針を当てて血液を調べる必要がある糖尿病患者にとってはとても助かるものではないか、ということです。


機械工学を軸に生命工学を取り入れていくという独自の分野。この領域から今後も新しいものが生まれるに違いありません。



6.美しき漂流者 クラゲ
6億年前もの太古から生息環境に合わせて進化してきたクラゲ。その独自の生態は意外と知られていないとのことでした。

ミズクラゲを一例にその一生が紹介されています。まず、刺胞動物門であるミズクラゲ有性生殖です。雄から精子を受け取った雌は保育嚢でプラヌラと呼ばれる0.2ミリ程度の幼体になるまで育てます。プラヌラは海中を漂い岩場などにたどり着くと浮遊生活をやめ、その場所に根をはやし、触手を伸ばしてイソギンチャクのような形態となります。これをポリプと呼び、この時に分裂や出芽という工程により無性増殖することができます。このポリプは縦方向に成長し、層状にくびれができて赤い花が積み重なったような「ストロビラ」へと変化します。ストロビラはエフィラというクラゲの原型を一枚一枚海へ放出し、これがクラゲの元となります。ストロビラを放出後もポリプは生きておりクラゲを繰り返し生産することができるそうです。エフィラはさらに成長して傘らしいものができてメタフィラという形態になり、ようやくクラゲになるのです。


クラゲは大きく分けて2つのグループに分けられます。それは刺すクラゲと刺さないクラゲです。刺すクラゲを刺胞動物門、刺さないクラゲを有櫛(ゆうしつ)動物門といいますが、この刺す、刺さないというだけでなく、刺胞動物門のクラゲは雌雄異体、有櫛動物門のクラゲは雌雄同体という違いもあります。


クラゲに刺される、ということはよく言われますが、この「刺す」のは刺胞動物門だけなのですね。そして、この刺すクラゲの中でカツオノエボシハブクラゲは、刺されたときその症状が激しいことで知られます(日本近海の場合)。カツオノエボシの毒針は長く、皮膚の奥深くまで毒が浸透するため、刺されると溺れる危険があります。また、ハブクラゲは毒性はそれほど高くないものの、刺胞の数がとてもいいため症状が重くなるそうです。


また、クラゲは全身に神経が張り巡らされている一方、脳のような中枢器官を持っていない。このため、クラゲの体全体が脳と考えてもおかしくはないそうです。また、味覚、時間感覚、温度といったことを感じる神経があるのかはいまだ不明で、身近でもわからないことは多いようです。


クラゲの寿命は一般的に一年程度といわれていますが、環境によっては数年生き続けることもあるようです。ベニクラゲは現在わかっている地球上の有性生物の中で唯一不死の生命体として知られます。これは、傷ついたりしても自分の形態をポリプに逆戻りさせ、若返るという芸当を使えることによります。


ほとんどが水分のため化石も残りにくく、進化の過程もわかっていないクラゲ。研究者の間では未知の部分が多い「宝の山」といわれているそうです。



7.急増する自閉症
自閉症の子供の遺伝子を解析している、アメリカ、コールドスプリングハーバー研究所のマイケル・ウィグラー教授は、自閉症発症の原因となる遺伝子異常の実に70%以上が父親の遺伝子に原因があるということを明らかにしました。近年増加中の自閉症発症の原因が父親の高齢化によるものである、というのが一説として有力になってきているようです。

具体的には父親の精子に「エピゲノム変異」が生じることが原因と考えられています。これは、DNAの塩基配列は変化しないが、DNAもしくはDNAを束ねるヒストンと呼ばれるたんぱく質に特別な科学変化が生じることによって、結果的にその部分の遺伝子の働きやすさに変化が生じるというものだそうです。自閉症の人には特に7番染色体で見つかったデノボCNV変異というものです。デノボCNV変異とは、親ではなく子供に生じる遺伝子異常を刺します。

自閉症は2個ある遺伝子の1個が働かなくなるというタイプが多いため、人為的に残った遺伝子の働きを活性化することが治療につながると考えられています。ただし、これはまだ実用化の域には達していません。

それに加えて、自閉症の原因は遺伝子異常だけではなく複数の要因が絡んでいるということがわかってきており、解明への道はまだ半ばのようです。



8.虫刺され
吸血性の虫に注目し、虫刺されの症状やその対処法について紹介されています。赤身やかゆみのもとはアレルギー反応ですが、これは吸血性の虫が「唾液腺物質」という血液の凝固を防ぐ物質を、人の体に注入することによって起こります。蚊に刺されると、まず数分以内に腫れが起こる「即時型アレルギー反応」、翌日に起こる「遅延型アレルギー反応」が起こります。

即時型アレルギー反応は、唾液腺物質が体内に入った後にIgEというたんぱく質が作られ、それが肥満細胞に結合、その状態で唾液腺物質がIgEに結合するとヒスタミンという物質が出ることで生じる”かゆみ”や炎症のことを言います。

一方の遅延型アレルギー反応は、唾液腺物質に反応して、免疫細胞のT細胞が起こす炎症反応です。遅延型は強く腫れて炎症が続くという特徴があります。


年齢を重ねるにつれ遅延型アレルギー反応は減少し、即時型アレルギー反応のみが起こるようになります。


虫刺されの症状を抑えるには、刺されてから早めに薬を塗ることが大切です。抗ヒスタミン薬は即時型アレルギー反応に、副腎櫛ホルモン(ステロイド)は遅延型アレルギー反応の低減に効果があります。