2013年4月号

恒例の感想文です。

ここ最近は、電子出版に向けた準備(原稿作成に加え、税金対策のための書類作成など)に時間を費やしていましたが、一度出版すればとりあえずやり方はわかるので、あとは原稿作成に専念できそうです。

ご参考までに、以下が自著です。よろしければご購入いただければ幸いです。

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電子出版がアウトプットだとすると、Newtonの感想文はインプットでしょうね。アウトプットも大切ですが、アウトプットだけでは質が低下するので、それなりのインプットもすべく、この感想文も続けていきたいと思います。


では、早速内容に入ります。



1.がんの”親玉”を退治する新療法をマウスで実現

がんは再発率の高い病気の一つです。そして、この再発を助長している根源の一つとして近年注目されているのが「がん幹細胞」です。がん幹細胞は暴走増殖を続ける通常のがん細胞と異なり、分裂する頻度は数か月に一回程度と極端に低い。このため、細胞の増殖という機能をターゲットに細胞を攻撃するよう考えられている放射線抗がん剤が効かないという問題がありました。


九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授は、がん幹細胞の増殖を抑えるたんぱく質Fbxw7”というたんぱく質に着目し、このたんぱく質の働きを抑えるよう遺伝子操作されたがんを患っているマウスに抗がん剤を投与したところ、ほとんどのマウスでがん再発が確認できなかったとのことです。このFbxw7というたんぱく質の働きを抑える薬は現在開発中とのことで、これが実現できればがん幹細胞は増殖するようになり、通常の抗がん剤放射線治療が有効になると考えられるそうです。これにより、がんの”根源的な治療”が可能になると期待されています。ただし、Fbxw7の働きが抑制されたがん幹細胞は増殖するようになるため、がん細胞が増えることにつながるため、Fbxw7の働きを抑える薬を投与したら、数日中に抗がん剤を投与することが重要だとのことです。


がんの再発率が低下する今回の話。がんでの死亡率が高い我が国において、新しい医療の動きの一つとして注目されそうですね。




2.脳活動の解析から「夢解読」に成功

これは一般紙にも掲載されていた内容でしたので、ご存じな方もいらっしゃるかもしれません。人が見ていた夢の内容を解読する技術に関するものです。

国際電気通信基礎技術研究所(ATR)情報技術研究所の神谷之康博士らの行ったのは、脳の血流変化から活動量を計測できるfMRIの中で眠ってもらい、夢と関連の強い脳波が出た時点で声をかけて起こし、直前に見ていた夢の内容を説明してもらうという実験内容。3人の男性被験者から200回以上のデータを取得したとのことです。


結果、夢の内容についてランダムに聞いた場合(あてずっぽう)の夢の正解率が50%だったのに対し、fMRIの反応に関する視覚情報のデータベースで得られた結果を基に聞いた場合の正解率は70%を超えたとのことです。


現段階では名詞に関する予測しかできないが、色や形、体の動きや感情といったものの予測も目指したいとのことです。


夢の解読技術は精神疾患の診断にも応用できると期待されているそうです。本技術の今後の発展も楽しみです。

3.痛風の炎症を引き起こす仕組みを解明
痛風の炎症の原因となるのは細胞の老廃物である「尿酸」である、ということは広く知られています。尿酸は血液中で一定量を超えると結晶となって関節などに付着し、それがはがれた時に炎症がおきます。以前から、貪食細胞(好中球やマクロファージなど)が尿酸結晶を取り込むと炎症が起こることはわかっていたが、その詳しいシステムはわかっていませんでした。今回、このシステムが明らかになったとのことです。


尿酸結晶を取り込んだマクロファージ内では、尿酸結晶の刺激によりミトコンドリアが損傷する。すると「SIRT2」という健康・長寿に関わる遺伝子の働きが弱まり、細胞内の輸送路「微小管」にアセチル基がつく。その変化により、ミトコンドリアは微小管に乗り、細胞の中心部である「小胞体」へと運ばれる。この結果として、小胞体の持つ部品「NLRP3」と、ミトコンドリアの持つ部品「ASC」が組み合さって複合体ができるそうです。この複合体が炎症を引き起こしている根源だと判明したそうです。

現在、痛風の特効薬として用いられている「コルヒチン」という薬は微小管の活動を阻止することでミトコンドリアの移動を妨げているため痛風に効果があるが、この薬は微小管そのものを破壊するため、副作用も大きいとのこと。

今回明らかになったシステムをベースに、痛風の特効薬が開発されるのが待ち遠しいですね!



4.加速するメタンハイドレート開発
近年、新たな国産エネルギー源としてメタンハイドレートが注目されています。つい最近も愛知県渥美半島メタンハイドレートからメタンガスを採取することに成功したとニュースになっていました。



そもそもメタンハイドレートとは何でしょうか。ハイドレート(hydrate)は水和物という意味です。メタンハイドレートは水分子が作った「かご」の中にメタン分子が収納された構造を持っています。このかごには二つのパターンがあり、正五角形で囲まれた12面体と正五角形12個と正六角形2個でできた14面体です。


このメタンハイドレートという構造をとるには高温、もしくは高圧(もしくはその両方)という条件が必要です。水温が仮に15℃である場合、メタンハイドレートの形をとるには150気圧が必要となる。しかしながら、実際の海水温は深くなるほど低くなるので、推進500メートル(約50気圧)でメタンハイドレートが存在できる環境が得られます。


これならば、海水中にメタンハイドレートができそうなイメージがありますが、実際はそうなりません。なぜなら海水中ではメタンが飽和するだけの十分なメタン濃度には達しないためです。その一方、メタンハイドレートは海底の表層に多く存在します。これは海底付近で、メタンを生み出す硫酸還元菌などの生物活動(続成作用)が起こっていることによります(メタンの生物起源説に基づく)。


一方で、ある一定以上海底を掘り進むと、今度は地熱により温度が上がり、メタンハイドレートは存在できなくなります。このため、海底の表層付近でメタンハイドレートは多く発見されると考えられています。


このメタンハイドレートからメタンを取り出す技術として、現在日本が採用しているのは「減圧方式」と呼ばれるものです。メタンハイドレートが存在するには高圧低温が必要であるということを利用し、圧力を下げることでメタンを分離するやり方です。このほかには「加温方式」と呼ばれるやり方もありましたが、陸上での予備実験により減圧方式のほうがメタン採取効率が高かったとのことです。結果的に2013年3月の試験では6日間にわたって約12万立方メートルものメタンを採取することに成功しました。



しかしながら課題もあります。やはり、コストです。メタンハイドレートからメタンを算出する生産効率は一日あたり約2万立方メートル。一般的なガス田ではその10倍近い量を算出しているとのことです。つまりあまり生産効率が良くないのです。現状では採算は取れないため、今回の実験で得られたデータから、生産効率の改善、生産工ストの低下という内容についての検証を進めるとのことです。


いずれにしても、エネルギー源の選択肢を持っておくことは大切なことです。今後の技術開発に期待です。




5.量子論
今月号の特集です。言わずと知れた現代物理学の二大理論の一つ(もうひとつは相対性理論)ですね。身近なPC、携帯電話、家電といった製品に必ず使われている半導体チップはこの理論無くして存在することすらできません。原子や電子といったミクロな世界での物理法則を勉強しなおしてみたいと思います。


量子論が産声を上げたのは19世紀の終わりころです。当時製鉄業が盛んで、その品質向上のために溶鉱炉の中の温度を正確に測りたいというニーズがありました。600℃を超えるような高温のものを直接温度計で計測することはできず、高温となっている鉄そのものの色から温度を計測しようとしました。しかし、高温のものから発せられる光の法則性が理論的に説明することができませんでした。そんな中、マックス・プランクは「光を発する粒子の振動エネルギーは、とびとびの不連続な値しかとれない」おいう仮説のもと、量子仮説という考えにたどり着き、光の法則性を理論的に説明することに成功しました。この不連続な値しかとれない、というのが量子論の基本的な考え方の一つです。

エネルギーがとびとびの値をとるのは、光が粒のような性質を持っているからである、という「光量子化説」を唱えたのがアインシュタインです。これは、光が粒子であるがゆえにはるか彼方の星が見えるということからも想像できます。

時を同じくして、原子から発生される光が不連続である、という性質から原子内の電子軌道は特定のものしかなく、より高いエネルギーの軌道から低い軌道に電子が移動するときに、両者の軌道間の差に相当するエネルギーの光が発生すると唱えたのがニールス・ボーアです。



しかし、これも完全ではなく、粒子では通常起こらない干渉という現象も起こります。干渉は波の性質です。この波の性質ゆえに電子が特定の軌道しかとれない、という仮説を唱えたのがルイ・ド・ブロイです。波の波長は特定の長さです。その特定の長さが収まる円周位置でしか軌道が取れないと考えたわけです。


電子が、波と粒子の性質の共存ということを理解するのに必要な原理があります。不確定性原理です。不確定性原理とは、観測前に位置、ならびに運動状態がともに揺らいでおり、一の揺らぎを小さくしようとすれば運動状態の揺らぎが大きくなり、逆もまたしかりということを示すものです。これは、電子の波を電子の発見確率で示す(濃淡のある雲としてあらわされることが多い)という考えをもとに、電子の波を数学的にあらわしたものを波動関数といい、電子の波動関数が原子の中などでどのような形をとるのかを導くための量子論の基礎方程式を「シュレディンガー方程式」といいます。シュレディンガー方程式により、原子や分子内の電子軌道を求めることができるようになるのです。


シュレディンガー方程式は画期的でした。これにより、電子軌道が予測され、各元素が有する電子軌道が明らかになりました。そして、この電子軌道の違いが、各元素が有する固有の性質を説明することにつながり、すなわち電子軌道の違いが元素の性質を支配しているということを示したのです。


量子論は、なぜ元素ごとにこれほど性質がちがうのか、ということを解明することに成功したのです。


これは、例えば複数の元素によって起こる化学反応を解明する、といった量子化学の力は、化学工業や医薬品開発といった分野でなくてはならないものとして定着しており、今後のさらなる発展が期待されています。


同じように、ミクロな原子や分子が集まったものがマクロな固体であると考え、量子論に基づいてその性質を解き明かす物理学を「物性物理学」といい、半導体の性質の解明などにつながりました。これはすなわち、ダイオードトランジスタ、IC(集積回路)など、今となってはパソコンや携帯電話、家電製品から信号機にわたるまで、量子論のたまものが身の回りにあふれているのがわかります。


これら金属、絶縁体、半導体の性質を知るために必須な物性物理学の理論として、「バンド理論」があります。バンド理論とは、原子が結合して分子になり、さらに多くの分子が一体となって固体となるにつれ、電子軌道がエネルギー順位の高いものと低いものに「分裂」していき、その原子数が多ければ多いほど、分裂した電子軌道のエネルギー順位差が少なくなる結果、一つの「バンド(範囲)」を持つと考えるものです。バンドの中では、エネルギー順位の低いものから電子が埋まっていき、残りのエネルギー順位が最も高いものが完全に埋まっていれば絶縁体か半導体となります。途中まで埋まっているけれど、エネルギー順位が最も高いものが完全には埋まっていないのは金属となります。


ご想像の通り、バンドに空きがあり電子が自由に移動できる金属では高い導電性をしめします。一方、半導体の中にはSiなどのバンドギャップの小さい原子の場合、熱を加えたり、不純物を加えることで、絶縁体では不可能な電子を現段階で最もエネルギー順位が高いものよりさらに上に「ジャンプ」させたり、電子を追加することができます。この作用によって導電性を発揮するのです。



ここまで量子論は、様々な素粒子のうち電子に着目して話をしてきましたが、当然素粒子は電子だけではありません。今年になってその存在がほぼ確実となったヒッグス粒子、陽子や中性子を形作るクォークなど、まだまだあります。しかし、原理的にはどの素粒子も、粒子と波という性質を持ち合わせるという意味では電子と同じです。



一見完璧に見える量子論ですが、最大の弱点があります。それは、重力だけは説明できないというところです。現在のところ重力を説明できるのは一般相対性理論しかありません。何度も紹介したことがありますが、最終的な究極理論は量子重力理論だといわれており、これによりミクロな世界から、宇宙という巨大な世界まで一つの理論で説明できるようになるといわれています。まだ、未完成な理論ですが.....。超ひも理論がこの理論の基礎になると期待されていますがまだ完成ではありません。




最期に量子論の応用によって期待されるものを述べて終わりにします。近年、その実現に期待の集まるものとして「量子コンピューター」があります。まだ基礎研究の段階ですが、現在の最新鋭のスパコンで何億年もかかる計算を瞬時に解ける驚異的な計算速度を有するといわれています。


その計算速度のもとになるのは、量子ビットと呼ばれるものです。量子ビットとは今のコンピューターの0か1のビットではなく、例えば0が40%、1が60%というように中間的な状態(重ね合わせ状態)をとることをいいます。これにより、多数の量子ビットを分身させ、大量の計算を「当時進行」させることができます。この同時進行が、既存のパソコンでは到達できない飛躍的な計算速度向上につながるのです。


量子論は1900年のプランクの量子仮説から始まり、100年経った今も発展し続けています。


6.新型出生前診断

2013年4月から胎児の病気に関する新しい検査が、希望する妊婦に対しておこなわれるようになりました。「新型出生前診断」です。ダウン症などの診断に高い精度で診断することができますが、そもそもどのような診断なのでしょうか。そして従来の診断方法と何が違うのでしょうか。


まずは、従来の出生前診断を見ていきます。

  • 1960年代に登場した「羊水検査」

これが最も古いものとなります。検査は羊水がたまる妊娠15週以降に可能。胎児は子宮内の羊水を飲み、それを放出するという代謝を繰り返しているため、この羊水を採取することで胎児の代謝異常を調べることができます。さらに、羊水の中には胎児の体から脱落した胎児自身の細胞も含まれているため、様々な観点から胎児の診断を行うことができます。

診断精度は極めて高く99.9%。ただし子宮に針を刺すため、流産のリスクが0.3%存在するというのが最大のネックです。


  • 絨毛(絨毛)検査

1980年代に登場した検査方法です。妊娠10〜14週で実施できるため羊水検査よりも妊娠初期の段階での検査が可能です。この検査では胎盤の中にある絨毛を直接採取して検査する方法のため、ダウン症の診断精度は99.9%です。しかしながら、子宮に針を刺すというやり方は変わらないため流産のリスクがあり、その確率は1%もあります。


  • 超音波断層法

現在はほぼすべての妊婦が受けている検査。妊娠11〜13週で実施。1970年代に登場したこの検査は、ダウン症の典型症状である首の周りのふくらみなどから判定するなど、種々の先天性疾患を調べることができます。この検査は、技術の進歩もあり、画質は落ちますが立体で画像化することも可能となっています。これをDVDなどに保存してくれる産婦人科もありますね。我が家の子供も画像があります.....。

それはさておき、外側から周波数の高い超音波を当てる本検査は、何より母親に全く傷をつけないで行える検査のため極めて安全性の高い診断方法になります。しかしながら、ダウン症の診断精度は75〜80%にとどまることから非確定的検査の分類に入ります。


  • 母体血清マーカー検査

母親の採血によって行う検査です。1980年代に登場しました。胎盤を通じて母親の血液中に入ってくる4種類のたんぱく質(検査施設によっては2種や3種の場合もあり)やホルモンの濃度をはかる検査です。その濃度情報から一部の先天的な病気の可能性を評価できますが、診断精度は80〜85%程度であり、これも超音波断層法と同様、非確定的検査となります。




上述したのが従来方法です。それに対して新型出生前診断は、どのようなものなのでしょうか。

まず、検査できる期間は妊娠10週目以降で、従来手法で最も検査可能時期が早かった絨毛検査と同じタイミングでの検査が可能となっています。しかもその診断精度は99.1%あります。


そして、検査は母親の採血で診断可能です。これは、母親の血液中に含まれる胎児の細胞からDNA情報を見ることができることを利用しています。しかし当然ながら血液中には母親のDNA情報もありその中から胎児のものを抽出するのは非常に困難です。


では、どうして胎児の遺伝子異常が母親の血液からわかるのでしょうか。この理由は人の全24種類の染色体について含まれているDNAの量の比がわかっていることです。


得られたDNAの量の比に関する情報が、母親のものと胎児のものが混合しているものであっても、胎児のDNAに異常がなければDNAの量の比は当然正常値を示すことになります。逆にいえば、DNAの量の比が正常と異なる値を示せば、胎児に染色体異常の可能性があると考えることができます。この診断にはDNA断片の塩基配列を分析するシークエンサーという装置がつかわれます。シークエンサーの技術の大幅な進歩により、コスト低下、診断時間を短縮することができるようになりました。これも大きく貢献していることになります。


ただし、新型出生前診断は精度が99.1%であるものの非確定的検査なので、最終判断には羊水検査を実施する必要があります。


この診断にも多くの倫理的問題があるのは知られているところですのでここでは述べません。それ以外の問題としては、新型出生前診断で行う検査は国内ではできないため、血液試料を海外に送って実施している点です。当然、試料の取り扱いは問題ないか、鮮度は保たれているか、といったことが懸案としてあります。


課題がなくなったわけでない、ということはここで述べておきます。




今回の感想文はだいぶ長くなりましたので、この辺りにします。
来月はいよいよ私もモニターとして参加した「生命とは何か」という壮大なテーマに関するNewtonが発行されます。

乞うご期待です。